オフィス教室に集う中高生に届きはじめた学び──最高の講師仲間と挑んだ、ジブナル「1期」の手応えと課題

前回は、伊藤羊一さんから授かった“秘伝のタレ”と、手弁当で集まってくれた仲間たちと共に駆け抜けた「0期(無償版)」の試行錯誤についてお話ししました。
中高生の吸収力はすさまじく、本物の問いや大人に出会ったとき、彼らは大人の想像を超えるスピードで覚醒していく。手応えは確かにありました。
けれど、0期はあくまで「無料の実証実験」です。無料だからこそ、温かい目で参加してくれたのかもしれない。無料だからこそ、僕らも理想を語りつつ、どこかで妥協していられたのかもしれない。
「稼ぐ力をつけよう。黒字にしなければ、やりたいことは続けられない」
中高生にそう教えている僕たち自身が、次はお金をいただき、事業として価値を証明しなければならない。
「無料の実験」から、「お金をいただく本物の事業」へ。
ジブナルにとっての本当の真剣勝負──1期生の挑戦が始まりました。
「子どもたちに、これを手渡したい」──集まってくれた3人の仲間
実証実験を終えて、僕らは本格的なスキル科目の開発に踏み切った。
自分自身と向き合う「マインドセット」の土台の上に、社会を生き抜くための具体的な「武器」を届ける。
しかし、ビジネスの最前線で使われている思考法を、10代の胸に届くカリキュラムに落とし込むのは至難の業だ。僕一人の手には余る。
そこで、ビジネスの第一線で活躍し、教えるプロでもある講師仲間に声をかけて、自分の想いをお伝えした。集まってくれたのは、3人の心強いプロフェッショナルだった。
彼らと対話する中で、僕自身が胸を打たれた。彼らは単に講義を引き受けてくれたのではなく、「自分自身が生きてきた中で痛感した、今の10代に手渡したい知見」を、熱っぽく語ってくれたからだ。
一人目は、若杉忠弘さん。
若杉さんが語ってくれたのは、「セルフコンパッション(自分への慈悲)」と「心の受け身」の大切さだった。
「中高生の頃の自分には、それがなかった。SNSが当たり前になり、他者との比較が日常化している今の子どもたちは、僕らの頃よりもずっと過酷な世界を生きている。傷つきやすくなっている彼らに、傷への対処法や心の受け身を教えてあげたいです」。
二人目は、鷲巣大輔さん。
鷲巣さんは、激動の時代における「寛容さ」と「対立をさばく知性」について語ってくれた。
「これからの時代、社会の分断や対立はもっと深刻になる。個人の自由が保障されているからこそ、自分とは違う考えや多様な価値観を知り、許容する体験が欠かせない。エリート教育をしたいわけじゃない。幅広い世界を知り、価値観に触れ、寛容さを身につけること。そこにジブナルの意味があると思う」
三人目は、平野善隆さん。
自身でも子ども向けサッカースクールを運営している平野さんは、初回のミーティングから驚くほど具体的な授業構想を広げてくれた。
「自分を無理に売り込むんじゃなくて、客観的に『人は何に価値を感じるのか』という感覚──ちきりんさんの言う“マーケット感覚”を身につけることが大事。自分もハッピーで、相手もハッピーになる。マーケターの仕事とは、人を深く見ることなんだよ」
こうして、若杉さん、鷲巣さん、平野さんという強力な講師仲間が加わり、何度もディスカッションを重ねながら、オリジナルカリキュラムの開発が加速していった。
教室は、ビジネスの現場そのもの──「ミネルバ方式」の空間設計
授業のフォーマットは、0期の実証実験で見出した「2時間 × 3回」を採用した。
集中力を保ちながら、概念の理解から実践的なワークまでを体系的に届けるための、ジブナルが見出した適切なサイズ感だ。
講師陣が各科目のクオリティを極限まで高めつつ、僕は科目間を貫くストーリーと体験価値の設計に力を注いだ。受講を重ねるごとに、マインドとスキルが螺旋階段を登るように積み上がっていく設計だ。
そしてもう一つ、僕にはこだわりがあった。
それは、「授業を行う場所」だ。貸し会議室を借りるのではなく、「本物のビジネスが動いている企業のオフィス」を教室にする。
「みんなが今日足を踏み入れたこの場所は、社会のこんな課題を解決している会社なんだよ」と語りかけることで、エレベーターを降りた瞬間から、ビジネスの手触りと社会のリアリティを肌で感じてほしかった。僕らはこれを、世界各地の都市を巡りながら学ぶスタイルになぞらえて「ミネルバ方式」と呼んでいた。
この想いに賛同してくれた企業がオフィスを提供してくれた。
5月「考えるヒケツと問いのチカラ」(講師:濱)
障がい者雇用支援の最前線を走る、株式会社スタートライン様のオフィスをお借りした。障がい者雇用という社会課題に向き合う現場の空気が、生徒たちの思考を深めてくれた。

6月「おカネのルールと投資のヒケツ」(講師:鷲巣さん)
渋谷にあるエッグフォワード株式会社様のオフィス。人や組織の可能性を最大化するスタートアップの熱気の中で、お金の本質を学んだ。

7月「共感と協調のリーダーシップ」(講師:若杉さん)
広告・コミュニケーションのプロフェッショナルである、株式会社大広様のオフィスをお借りした。

8月「売れるヒケツと人気のカラクリ」(講師:平野さん)
教育と社会をつなぐマーケティングを手掛ける、株式会社進研アド(新宿)様にご協力いただいた。

ミネルバ方式による授業の提供は、日曜日ゆえにビルの入館手続きでバタバタしたり、道に迷う生徒が出たりと小さなアクシデントはあったものの、ガラス張りの会議室や開放的な執務スペースに足を踏み入れた瞬間の生徒たちの引き締まった表情は、今でも鮮明に焼き付いている。
「大盛無料」のカラクリを見抜いた日──食卓へ染み出す変化
お金をいただいて開講した1期生。
集まってくれた生徒たち、そして背中を押して送り出してくださった保護者の期待に応えられているか。毎回のアンケートを開く手には汗がにじんだ。
だが、届いたのは僕たちの胸を熱くする言葉ばかりだった。
「学校では教わらないけれど、人生で本当に大切なことが詰まっている」
「普段は与えられた問いにしか答えなかった子が、自ら問いを立てて考えるようになった」
「家庭で、ピラミッドストラクチャーを使って論理的におねだりしてくるようになりました(笑)」
「親の自分自身が、中高生の頃に受けたかった学びそのものです」
何より嬉しかったのは、教室の中の2時間にとどまらず、「日常の景色」と「家庭の食卓」に学びが染み出していったことだ。象徴的な出来事があった。
下期に森さんと開発した「稼ぐ仕組みとお金の動かし方」を受講した、僕の次男と妻のエピソードだ。
ある日、街を歩いていた妻が、ラーメン屋の「大盛無料」という看板を見て「こんなにサービスして、お店は損しないのかしら?」と呟いた。
すると、隣にいた次男がサラリとこう返したのだという。
「お母さん、大盛分の麺の原価なんて数十円だよ。大盛無料にしてもちゃんとお店が儲かるように、最初から全体の価格が設定されてるんだよ」
妻からその話を聞いたとき、僕は思わず唸ってしまった。
教科書に書かれた数式を暗記したのではない。街のラーメン屋の看板一つから、その背景にある「ビジネスモデルとコスト構造」を見抜いている。学びが、少年の日常の解像度を確かに変えていた。
「自分たちがやってきたことは、間違いじゃなかった」と、確信が込み上げてきた瞬間だった。
高い満足度の裏にあった「3つの違和感」
その後、唐川さんと「未来をつくる越境力の磨き方」を立ち上げ、GRA岩佐さんの協力で「未来を創る実践ラボ」を開講。三小田さんや平山さんといった頼もしい講師陣も加わり、SUMUS様が拠点を安定して提供してくださるなど、ジブナルの体制は着実に整っていった。地方展開の布石や、学校現場への導入といった広がりも見え始めていた。
授業アンケートの満足度は高水準。
オペレーションも回り、事業としての数字も整いつつある。
けれど──。
僕の心の中には、どうしても拭えない「小さな違和感」が澱のように溜まっていた。
記録用に撮影した授業の写真や動画を見返していたときのことだ。
生徒たちは真剣そのものだった。眉間にしわを寄せ、ノートを取り、大人顔負けの議論をしている。
「……でも、彼らは本当に『楽しそう』だろうか?」
一生懸命に学んでいる。頭も使っている。
けれど、子どもの内側から湧き出るような、無邪気な笑顔や爆発するような熱狂が、どこか足りない気がした。
さらに、受講していた自分の息子たちに聞いてみて愕然とした。
「今日、誰かと仲良くなった? 連絡先交換した?」
「ううん、全然。授業が終わったら、みんなすぐ帰っちゃうから」
あんなに濃密な時間を共に過ごしたはずなのに、授業が終わればバラバラに解散し、友だちの輪が広がっていない。
そして、各科目を単発で学んでいくスタイルゆえに、「一つの大きな山を仲間と登り切った」という圧倒的な達成感を手渡せていないのではないか──。
数字の上では成功に見える1期生。
だが、僕たちが目指した教育の理想に照らし合わせたとき、そこには残酷な課題が浮かび上がっていた。
「もっと、心の底から楽しく、夢中にさせたい」
「一生モノの、かけがえのない仲間をつくらせたい」
「泥臭くやり切り、人生の自信になる圧倒的な達成感を手渡したい」
単発の授業を並べるだけでは、この3つを届けることはできない。
予定調和の教室を飛び出し、極限の熱量で子どもたちを揺さぶり、彼らの殻を根底から突き破るような「非日常の挑戦の場」が要る。
「……分散してやるんじゃない。ひと夏をすべて懸けて、一気にやり切る集中プログラムをつくろう」
こうして、1期生で見えたすべての課題と祈りを注ぎ込み、僕らはジブナルの次の挑戦──「サマープログラム2026」の構想へと舵を切ることになった。実際に開催したレポートは、ジブナル公式サイトに公開しているのでぜひご覧いただきたい。

感触は大変好評で、実施後の保護者アンケートも回答者全員から「大変満足」「満足」の回答を頂けた。しかし、課題もあった。
次回は、サマープログラム開催をしてみての振り返りや気づきを書いてみようと思う。