文科省「NEXTハイスクール構想」をどう現場で加速させるか。江戸取手・熊代氏が語った探究とビジネス教育の今

2026年 9月30日(水) 21時〜(オンライン)
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2026年6月8日夜、ジブナル主催のオンラインイベント「文科省NEXTハイスクール構想を加速させる江戸取の共創の現在地」が開催されました。テーマは、AI時代の教育はこれまでと同じでよいのか。文部科学省が示した「NEXTハイスクール構想」を背景に、学校現場でどのような改革が始まっているのか、そしてその中でなぜ「ビジネス」の視点が必要とされるのかが語られました。

登壇したのは、江戸川学園取手中・高等学校で進路支援の責任者を務める熊代淳さん。モデレーターはジブナル代表の濱が務めました。イベントでは、江戸川学園取手中・高等学校の教育改革の考え方から、探究学習のトラック制導入、外部連携の実際、生徒たちの反応、そしてこれからの中高生に必要な体験まで、具体的な言葉で共有されました。

目次

「これからの中高生には、人生の操縦桿を握っていくための新しい教育が必要」

冒頭で濱は、このイベントの趣旨を次のように説明しました。
濱:「AIが社会実装されて、大きく社会が変化する中で、教育も変わっている。文科省が今年の2月にNEXTハイスクール構想を示し、未来を担う中学生、高校生のために新たな教育の指針を出しました」
そのうえで、学校現場だけでは新しい取り組みをすべて担うことの難しさにも触れます。
濱:「学校の先生は本当にお忙しい中で、こうした新しい取り組みを学校の先生のリソースだけで網羅していくのは、やはり構造的な難しさがあると思っています。だからこそ、学校が持ってきた知性の土台と、外部の実務家やビジネス関係者が持つ実践的な知見を掛け合わせることが必要なのではないか」
この日の対話は、まさにその「掛け合わせ」が現場でどう進んでいるのかを掘り下げる時間となりました。

「生徒主体」に切り替えた学校改革。江戸川学園取手中・高等学校の現在地

講演の前半で熊代さんは、まず学校と自身の紹介から話し始めました。江戸川学園取手中・高等学校は取手市にあり、都心からのアクセスもある一方で、生徒募集の面では都心校との競合もある立地だと説明します。
また、学校のイメージについても率直に語りました。
熊代さん:「以前のイメージをご存じの方がいると、『スパルタ進学校』と言われていた時代もあるんですけれども、今はもう全然、校風が変わっていて、非常に生徒主体になっています」
その転換の背景には、社会で必要とされる力への問題意識があったといいます。
熊代さん:「社会人に必要なもののナンバーワンは主体性だというデータもありましたし、AIに勝てる三つのスキルと言われるものの大元にあるのも、自分自身で考えて行動する主体性だと考えています」
さらに、学校として「よい大学に送り込めばよい」という発想だけでは不十分だとも明言しました。
熊代さん:「スパルタに、とにかく生徒に考えさせずに勉強だけさせればいいというのは、仮にそれでいい大学に行ったとしても、その子がそのあと決して幸せになれないんじゃないかという考えのもとで、大きく改革をしています」

教員と生徒の距離が近い校風も、現在の探究改革を支える基盤になっているようです。熊代さんは、職員室に自然と生徒が入ってきて、探究の相談から日常生活の話までできることを、この学校の特徴として挙げました。

「好きとか得意」にフォーカスが当たった。NEXTハイスクール構想をどう見るか

今回のイベントの中心テーマの一つが、文科省の「NEXTハイスクール構想」でした。熊代さんは、この構想の中でも特に「好き」と「得意」への言及に注目していると話します。
熊代さん:「今までも主体性とか学びの態度、協働性はずっと出てきていたんですけれども、ついに子どもたちの『好き』とか『得意』にフォーカスを当ててきたな、というのが今までとは少し毛色が変わってきていると感じています」
その背景には、子どもたち自身が将来を考える際の難しさがあるといいます。
熊代さん:「今の子どもたちは情報がたくさんあるので、自分がなりたいと思ったものに本当に適性があるのかも考える。『好きだけじゃなかなか生きていけない』ということも分かる時代です。だからこそ、好きとか得意を大切にして伸ばしていかなきゃいけない」
さらに熊代さんは、政策文書の影響は実際に学校現場や大学入試にも及ぶと指摘しました。大学入試における総合型選抜・学校推薦型選抜の比率変化に触れながら、学力だけではない評価軸がすでに拡大している現実を説明します。
熊代さん:「昔ながらの学力は学力で必要です。でもそれだけでもだめになりだしています。まさにそれだけじゃだめな部分が、今いろんな学校で力を入れている探究なのかなと思っています」

「幕の内弁当型の教育から、ビュッフェ型の教育へ」

では、江戸川学園取手中・高等学校はその変化にどう向き合っているのか。熊代さんは学校の教育方針を、印象的なたとえで表現しました。
熊代さん:「幕の内弁当型の教育から、ビュッフェ型の教育へ、という言い方をしています」
その意味はこうです。学校があらかじめ決めた一つの教育パッケージを全員に提供するのではなく、多様な教育ラインナップを用意し、その中から生徒が自分の夢や好き、得意に合わせて選んでいく。ただし一方で、進学校として学力の基盤は守る。その両立を目指しているといいます。
熊代さん:「いろんなものが用意してあります。その中から、あなたの夢、あなたのやりたいこと、得意、好きに合わせて教育を選んでいきましょうと。ただ、うちはベースは進学校なので勉強もしっかりしましょうと。でもそれだけじゃなくて、いろんな教育ラインナップがありますよ、という状況を目指しています」
この方針のもとで始まったのが、高等部での探究学習トラック制です。

「なぜ、探究学習に『ビジネス』の視点が必要だったのか?」

トラック制は、学術探究、ビジネス探究、映像クリエイト、グローバル探究の4つで構成されています。対談パートでは、このうちなぜビジネスが早い段階で必要な領域として浮かび上がったのかが掘り下げられました。
濱:「アカデミックなところで網羅されていないものとして、なぜ最初にビジネスが出てきたのか。そこを聞いてみたかったです」
これに対し、熊代さんはまず進路指導の現場感覚から答えます。
熊代さん:「うちの学校、生徒の進路指導をしている中で、結構経営系に行きたがる子が多いんです。学部系統でピンポイントに絞ると、医学部医学科の次ぐらいに経営が多いのかなというぐらい、興味を持つ子が多い」
そのうえで、経営やビジネスは学問としてだけでなく、実務の知見と切り離せない分野だと続けました。
熊代さん:「彼らは経営学を勉強して経営学の専門家になりたいんじゃなくて、それを使ってビジネスをしたいという発想を持っている。やっぱり現場に立っている方に学んでほしいというのは大きいですね」
さらに、ビジネスを学ぶことは、文系・理系を問わず機能する「ジョーカー」だという見方も示されました。
熊代さん:「いろんなことをやりたくても、どの分野にも関われるのがビジネスなんです。医学とか薬学でさえも、研究の先でベンチャーを立ち上げて資金を集めるようなビジネス思考を使う。全員にとって、ビジネスは修めておいて損はまったくない」

「高校生としては」で終わらせないために。外部実務家との連携

熊代さんが外部連携の必要性を感じた背景には、これまで見てきた高校生のビジネス系探究への違和感もありました。
熊代さん:「どうしてもビジネスの探究は、『高校生としては』という評価で終わるものが多かったんです。せっかくビジネスを学ぶなら、ちゃんと社会で通じるものをやってほしいなと」
その判断基準として、過去に自身が新規事業コンテストで受けた問いを挙げます。
熊代さん:「耳がタコになるぐらい言われたのが、『それは本当に顧客がお金を払ってでも解決したい問題ですか』ということでした」
この視点が、高校生の探究にも必要だと考えたとき、学校内だけでは難しいと感じたそうです。
熊代さん:「高校生の探究を見るプロではなくて、本当に社会人を見るプロ、そういった方に見てもらわないとこれはできないんじゃないかと思った」
その結果として、ジブナルとの連携が始まりました。熊代さんは、MBAで学ぶ社会人向け講座の水準や実践性にも触れながら、実務家の関与に期待を寄せていました。

「教室に『ビジネス』が持ち込まれた瞬間、生徒や先生はどう反応したか?」

特別セッションのテーマとしても掲げられたのが、この問いでした。
最初にあったのは、本当に生徒が集まるのかという教員側の不安だったといいます。
熊代さん:「先生たちからは『本当に集まるのか』『ビジネスって硬そうだから、映像のほうに集まるんじゃないか』と散々言われていたんですけど、ふたを開けてみたら、むしろ一番集まってしまって」
この結果について濱が問い返すと、熊代さんは今の中高生の感覚をこう言語化しました。
熊代さん:「やっぱりジョーカーだというのは大きい気がするんですよね。自分の興味のある学問に、もう一個武器がほしいという感覚があるのかなと」
また、AIをすでに勉強に使っている生徒が多いことにも触れ、将来へのリアルな感覚が背景にあると見ています。
熊代さん:「勉強でAIを使っている子だけでも大体半分ぐらいいるんです。そうすると、その分野だけだと将来飯が食えないんじゃないか、という心配は、ちょっと想像力のつく子だったら分かってしまう」
一方で、教員にとってビジネスは最も遠い領域でもあるため、学校側の理解が追いつかない部分もあると率直に共有しました。
熊代さん:「ビジネスだけは、我々教員が一番理解が追いつかない部分だった。そこは今の課題感でもあります」

「探究に関わる先生はみんな不幸になる」。だからこそ外部と分担する

対談の中で印象的だったのが、探究推進に伴う学校現場の負荷についての発言です。
熊代さん:「探究に関わる先生はみんな不幸になる、という怖い言葉があるんですよ」
もちろんこれは比喩ですが、その背景には、調整役もプレイヤーも一人の教員に集中してしまう構造があります。
熊代さん:「みんなの協力を得ようとして、自分自身で調整もやるけどプレイヤーとしても動くとなると、全部が集中するんです。やっぱり潰れていっちゃう先生、結構いるんですよね」
その意味でも、学校は調整役に徹し、専門性の高い実践部分は外部に委ねる形が有効だと語りました。
熊代さん:「調整役に徹して、プレイヤーはお願いするというのは、かなり有効な手段なのかなと思います」
この指摘は、探究学習の拡大を考える学校関係者にとっても重要な論点だといえそうです。

「予測不能な時代を生き抜くために、今、生徒たちに『掴ませたい体験』とは?」

イベント後半では、これからの中高生にどんな体験が必要かという話題に移りました。
熊代さんは、学校として年間300〜400件ほどの外部コンテストやコンクール、ボランティアなどを生徒に紹介していると話します。狙いは、何か一つを押しつけることではなく、数多くの挑戦の中から「これだ」と思えるものに出会ってもらうことです。
熊代さん:「とにかくいろんなものにチャレンジしてみて、『うわ、これたまらんわ』みたいな、気づくとその作業をやっちゃう、みたいな、はまるものを見つけてほしい」
その話の中で、自身のキャリアも振り返りました。
熊代さん:「私ほど進路に失敗した進路指導部長はいないよってよく言っていて。社会が好きで文系なのに数学の先生をやっているんです」
数学ができないわけではないが、自分は本来「実際に使えるかどうか」を重視する実学志向だったと気づいた、といいます。そしてもし高校時代に今のようなビジネスコンテストがあれば、自分の進路は変わっていたかもしれないとも語りました。
熊代さん:「何の経験もしないで進路を選んじゃったんで、今の進路がある。子どもたちにはもっといろんなことを挑戦してもらって、自分の最適な才能のある道に出会ってほしい」

「人の不幸に気づいて解決策を見つけることに、新しい価値の創造が生まれる」

講演の終盤、熊代さんは学校のスクールミッションにもある「利他の心」に話をつなげました。ここでのメッセージは、単なる道徳教育ではなく、社会課題と価値創造をつなぐものでした。
熊代さん:「これからは、人の不幸に気づいて解決策を見つけることに、新しい価値の創造が生まれる。まさにこれがAIにできないことなのかなと思っています」
さらに、こう続けます。
熊代さん:「つまりこれはビジネスチャンスなんですよ。だから人に対する思いやりがなかったら、それにも気づけない」
利他の心とビジネスの視点を切り離さずに捉えること。ここに、江戸川学園取手中・高等学校がビジネス教育を「大きな柱」と位置づける理由がよく表れていました。

「全ての子どもたちには、全ての才能があり、全ての活躍する場所がある」

イベントの最後には、濱からジブナルのサマープログラムの案内もありました。内容としては、Want・Need・Canを起点に、自分がやりたいことと社会との接点、そして実際に動くためのスキルを短期集中で学ぶプログラムとして紹介されました。
これを受けて熊代さんは、保護者に向けてこんな言葉を残しました。
熊代さん:「一人一人の適性に合うところに配置することで、持っている力以上が発揮できる。やっぱりそのためにも、自分をどこに適切に進ませるかという思考を身につけるために、こういった学びは大切だと思います」
そして濱もまた、イベント全体を締めくくるように語ります。
濱:「全ての子どもたちには、全ての才能があり、全ての活躍する場所がある。その伸ばしてあげられるのは、親、学校の先生、そして第三者の我々みたいな大人だと思っています」

まとめ

今回のイベントでは、文科省の「NEXTハイスクール構想」を単なる政策文書としてではなく、学校現場で何を変えるべきかという具体的な問いとして受け止める姿勢が共有されました。
特に印象的だったポイントは、次の3つです。

  • 「好き」「得意」を軸に教育を設計し直す必要があること
  • 探究にビジネスの視点を入れることで、社会に通じる問いや価値創造に近づけること
  • その実装には、学校内だけで抱え込まず、外部実務家との共創が重要であること

江戸川学園取手中・高等学校の取り組みは、特定の学校だけの事例というより、これから多くの学校が向き合う課題を先に可視化しているようにも見えました。AI時代の教育を考えるうえで、主体性、好き、得意、利他、そしてビジネスをどうつなぐか。そのヒントが詰まった一夜でした。

2026年 9月30日(水) 21時〜(オンライン)
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